相続登記を子名義にしたら、譲渡税が増えた|自宅売却と3,000万円特別控除の落とし穴

相続登記で自宅を最初から子の名義にすると、子が住んでいない家を売るときに、居住用の3,000万円特別控除が使えず、譲渡税がかかることがあります。名義は、将来の出口まで見て決めます。 

相続登記のご相談で、「どうせいずれ子が継ぐのだから、手続きを一度で済ませたい。最初から子どもの名義にしておきたい」というお話はよくあります。お気持ちはよく分かります。けれど、その選び方が、将来の自宅の売却で思わぬ譲渡税を生むことがあります。実際に起こりやすい形を、一例として整理します。 

この記事の内容
・ケース 母の施設の費用のために、実家を売ろうとしたら
・なぜ、譲渡税がかかったのか
・もし「母の名義」にしていたら
・母の名義にも、別の課題がある 「売れなくなる」リスク
・正解は「売る可能性の度合い」で変わる
・名義は「将来の出口」まで考えて決める
・この判断例の分かれ道
・登記のご相談でも、分け方から整理します 

ケース 母の施設の費用のために、実家を売ろうとしたら

 お父様が亡くなり、相続人はお母様とお子様。実家には、お母様がひとりで住み続けることになりました。 相続登記をする際、「いずれ子が継ぐのだし、手続きは一度で済ませたい」と考え、自宅を最初からお子様の名義にしました。 数年後、お母様が施設に入居。その費用にあてるため、実家を売却することに。ところが、売却に伴って、お子様に譲渡所得税がかかってしまいました。

 なぜ、譲渡税がかかったのか

 自宅を売って利益(譲渡益)が出ても、「自分が住んでいた家」を売る場合には、譲渡益から最大3,000万円を差し引ける「居住用財産の3,000万円特別控除」という制度があります。これが使えれば、譲渡益が3,000万円以内なら、税金がかからないこともあります。

ただし、この特例は、売る人自身がその家に住んでいたことが前提です。

名義人であるお子様は、その家に住んでいませんでした。そのため控除が使えず、譲渡益にそのまま税金がかかってしまったのです。 なお、相続した不動産は、亡くなった方の取得費と取得時期を引き継ぎます。取得費が分からないと、売却額のわずか5%しか取得費にできず(概算取得費)、譲渡益がさらに大きく出てしまうこともあります。 この特例は、共有者ごとに判定します。夫婦で住む家を夫婦共有にしておくと、夫婦そろっているうちに売れば2人分使える可能性がある、という話は別の記事にまとめています。 

おしどり贈与で夫婦共有にすると、売るときに3,000万円控除が2人分になる可能性 


もし「母の名義」にしていたら 

お母様は、その家に実際に住んでいました。お母様の名義のまま売却していれば、3,000万円特別控除が使えた可能性が高いといえます。施設へ移ったあとでも、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すれば、対象になります。 さらに、所有期間が10年を超える居住用財産であれば、税率が軽くなる特例が使えることもあります(所有期間は、お父様が取得したときから数えます)。条件しだいではありますが、多くのケースで、譲渡税はぐっと抑えられたはずです。 ただし、配偶者の名義にすることには、2次相続で負担が増えるという別の見方もあります。 

とりあえず配偶者で大丈夫?|2次相続まで考えると、税金だけでは決められません  


母の名義にも、別の課題がある 「売れなくなる」リスク 

 母の名義にしておけば、税の面では有利です。けれど、別のリスクがあります。お母様が認知症などで判断能力を失うと、ご本人の意思を確かめられず、自宅を売ること自体が難しくなります。 その場合、売却するには成年後見人を選び、家庭裁判所の許可を得る必要があります(ご本人の居住用不動産の売却には、許可が必要です)。時間も手間もかかり、後見が始まると、財産はご本人のために使うことが原則になるため、ご家族の都合だけでは動かせなくなります。 そこで、判断能力があるうちの「備え」として、次のような選択肢があります。 

民事信託(家族信託) 認知症への備えとして有効 

 お母様が元気なうちに、自宅の管理・処分を子に託しておく方法です。認知症になっても、受託者(子など)が売却できます。認知症への備えとしては有効です。 ただし注意点があります。信託にした自宅は、お母様の相続で信託が終わり、子が帰属権利者として受け取ってから売却しても、空き家特例(被相続人居住用家屋の3,000万円特別控除)が使えないとされています。帰属権利者としての取得は、法律上の相続や遺贈には当たらない、という東京国税局の文書回答(令和4年12月20日)があるためです。「結局売らずに相続を迎え、空き家として売る」という道の控除を失うことがあります。 

民事信託(家族信託)の手続き|何ができるか・どんな場面で考えるかを整理 


相続時精算課税による生前贈与 

元気なうちに、自宅を子へ移しておく方法です。ただし、子が住んでいなければ、将来の居住用3,000万円控除は使えません(今回のケースと同じです)。贈与で取得した土地には小規模宅地等の特例も使えないなど、別の論点も出てきます。 

相続時精算課税贈与の仕組みと注意点 ― 2024年改正後の「110万円」を軸に整理 

自宅の認知症対策|遺言・贈与・信託・任意後見・成年後見を「比較して選ぶ」 


正解は「売る可能性の度合い」で変わる 

では、信託がよいのか、贈与がよいのか、それとも何もしないのがよいのか。実は、ここに一つの正解はありません。「自宅を売る可能性が、どのくらいあるか」によって、向いている形が変わってくるからです。 

  • 近いうちに売る公算が高い(施設の資金が必要になりそう、など):元気なうちの売却や、認知症になっても売れる民事信託が向きます
  • 当面は売らず、相続後に空き家として手放す公算が高い:信託にしないでおくことで、空き家特例を残せる場合があります 

「税金だけ」を見ても、「認知症対策だけ」を見ても、答えは出ません。 

住む人、売る時期、判断能力、税の特例。これらを並べて、ご家族にとっていちばん無理のない形を選ぶ。この見極めこそが、登記や売却の「前」に必要な判断です。 具体的な税額や特例の適用の可否は、税理士に確認します。けれど、どの形を選ぶと将来どうなるかという設計は、司法書士が全体を見渡し、税理士とも連携しながら整理する部分だと考えています。 同じ分かれ道で、当面は売らない方針が固まったため、組んでいた民事信託を終わらせ、遺言に切り替えた例もあります。 

民事信託の契約を解約した例|空き家特例と譲渡税を見据えて、遺言による承継へ 


名義は「将来の出口」まで考えて決める 

自宅の名義を誰にするかは、目先の手続きの回数だけでなく、次の3つまで見て決める必要があります。

これから、誰がそこに住むのか
将来、売る可能性があるか
売るとき、誰が売るのが税務上有利か 

登記の名義は、いったん決めると簡単には戻せません。あとから変えようとすると、贈与税や、別の譲渡の問題が出てくることもあります。だからこそ、「とりあえず一度で」ではなく、出口まで描いてから決めることが大切です。 配偶者か子か、自宅を誰が相続するかを7つの視点で整理したページと、すぐには決められないときに「今は決めない」という選び方を書いた記事があります。 

自宅相続の選択|配偶者か子か、7つの視点で整理する 

配偶者か子か。決められないなら「今は決めない」|相続登記を急ぐ前に 

この判断例の分かれ道 

下の図は、この例の分かれ道を1枚にしたものです。状況、分かれ目、2つの道、決め手の順に並べています。


  • 状況:お母様がひとりで住み続ける自宅を、「手続きは一度で」と最初から子の名義にした
  • 分かれ目:誰が住み、いつ、誰が売るか
  • 子の名義にした場合(この家族がたどった道):数年後に施設の費用のために売ったが、子は住んでいないので3,000万円特別控除が使えず、譲渡税がかかった
  • 母の名義なら:住んでいた人が売るので、控除を使えた可能性が高い。ただし認知症になると売れなくなるので、元気なうちに備えを 

本当に詰まるのは、相続登記をする時点では、お母様がいつ施設に入るのか、判断能力がいつまで保てるのかが分からないことです。分かれ目は、自宅を売る可能性の度合い。近いうちに売るなら、住んでいる人の名義と、売れる備えを。当面は売らないなら、空き家特例を残せる形を。数年後の出口から逆算して、いまの名義を選びます。 ほかのご家族がどう決めたか、そして自分たちは何を決める必要があるかは、次の2つのページに整理しています。

相続の判断例 

相続の道筋地図 

登記のご相談でも、分け方から整理します 

 「相続登記だけお願いしたい」というご相談でも、名義をどうするかは、分け方そのものです。誰が取得するのか、預貯金とのバランスはどうか、将来売りやすい形か。登記の前に、ここを一緒に整理します。 相続税や譲渡税がからむときは、税理士との打合せにもできるだけ同席し、税の見通しも踏まえて方向を整えます。具体的な税額や特例の適用の可否は税理士の領域ですが、「どの名義にすると将来どうなるか」という分かれ道は、登記の段階で一緒に考えられます。今回のような「あとで気づく譲渡税」を、できるだけ未然に防ぐためです。 初回のご相談では、登記の手続きだけでなく、分け方や将来の出口まで含めて、道筋をお示しします。初回のご相談は無料です。相続登記の進め方と費用は、次のページにまとめています。

相続登記のご案内|進め方・費用・期限から、次の相続の準備まで 

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新百合ヶ丘・川崎市麻生区の司法書士田中康雅事務所。相続実務30年以上の司法書士が直接対応。「心を軽くする相続」をコンセプトに、相続登記・全部まとめて遺産整理から、自宅・不動産の承継、遺産分割、遺言、生前・2次相続対策まで、法・税・暮らし・想いの4視点で道筋を整理。相続税は税理士と連携。まず当事務所で整理し、必要になったときに弁護士をご紹介。NPO法人相続アドバイザー協議会専務理事。

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